2023/10/16 近頃の話題やニュースから
鳥インフルエンザと殺処分
鳥インフルエンザと殺処分
この秋もまた高病原性鳥インフルエンザが発生しました。10月11日、北海道美唄市で発見されたハシブトガラスの死骸から高病原性鳥インフルエンザが検出されたとのことです。昨シーズンすなわち2022-2023シーズンの高病原性鳥インフルエンザの検出は、野鳥で242例、養鶏場の鶏などの家きんで84例といずれも過去最多でした。今シーズンもこの早い時期から発生したことを考えれば、更なる発生が危惧されます。
ちなみに、「高病原性」の定義ですが、最低8羽の4~8週齢の鶏に感染させて、10日以内に75%以上の致死率を示した場合に「高病原性」を考慮するとしています。
(国際獣疫事務局による定義 国立感染症研究所ホームページより)
ところで、高病原性鳥インフルエンザへの対応は、どのような法的根拠に基づき実施されているのかご存じでしょうか。例えば、2010年12月に、日本最大のツル越冬地である鹿児島県出水市で死んだナベヅル1羽が高病原性鳥インフルエンザに感染していたことが判明した後、翌年1月、出水市の農場で、採卵のために飼われていた鶏が高病原性鳥インフルエンザに感染していたことが鹿児島県によって発表され、これに伴い県は、①同じ農場で飼育されていた鶏約8400羽を殺処分し、②発生地点から半径10キロ圏内の162農場の鶏など家きん類や卵の移動を制限しました。
①並びに②のような対応は、現在では共に、「家畜伝染病予防法」並びに農林水産省が公表している「高病原性鳥インフルエンザ及び低病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針」が根拠となっています。家畜伝染病予防法は、家畜の伝染性疾病の発生を予防し、及びまん延を防止することを目的としており、日本では、牛・馬・豚・鶏などの家畜が家畜伝染病予防法の対象となり、必要に応じて殺処分が行われているのです。家畜とは、人間が生活に役立てるために飼育する動物のことで、いわゆる動物愛護管理法の44条4項1号にペットと共に「愛護動物」として列挙されています。その44条では、愛護動物をみだりに殺しまたは傷つけた者や虐待をした者に対しては懲役や罰金などの刑事罰が定められているのですが、家畜に関しては、家畜伝染病予防法によって場合によっては殺処分が認められているのです(ペットについても、犬と猫については狂犬病予防法で殺処分の対象となり得るのですが、この点については、東日本大震災が発生した際の対応などについて、後日また別のコラムでお話しします)。
高病原性鳥インフルエンザに関しては、家畜伝染病予防法16条でと殺の義務が定められており、患畜および疑似患畜(患畜である疑いがある家畜並びに患畜との接触などのために患畜となるおそれがある家畜)が対象となっています。したがって、①のような対応が実施されるわけです(②については、同法32条並びに上記指針参照。ただ、口蹄疫の場合にはさらに厳しい対応がなされています。覚えていますでしょうか、2010年の宮崎県の対応を。陣内孝則が主演を務めたNHKの地域発ドラマが思い出されます)。なお、最近のニュースでは、農林水産省は、高病原性鳥インフルエンザで殺処分される鶏の数を減らすため、鶏舎を複数のブロックに分けて運営する「分割管理」の導入を促しているようです。
これに対して、高病原性鳥インフルエンザに罹患したナベヅルなど渡り鳥への対応はどのようになっているかといえば、実は、殺処分等は行われていないようです。なぜでしょうか。この点については、次回ご説明します。
参考文献
環境省「令和5(2023)年シーズンの野鳥の鳥インフルエンザ発生状況」
環境省「令和4(2022)年~令和5(2023)年シーズン 国内での野鳥における鳥インフルエンザ発生状況」
高病原性鳥インフルエンザ疫学調査チーム「2022 年~2023 年シーズンにおける高病原性鳥インフルエンザの発生に係る疫学調査報告書」
2010年12月22日朝日新聞「出水のツルから高病原性ウイルス 別の3羽も陽性 鳥インフルエンザ【西部】」
2011年1月26日朝日新聞「鹿児島・出水の鳥インフル、高病原性 即日処分、移動制限域を設定【西部】」
家畜伝染病予防法(昭和二十六年法律第百六十六号)e-Gov法令検索より
農林水産大臣公表「高病原性鳥インフルエンザ及び低病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針 令和2年7月1日(一部変更:令和3年10 月1日)」
動物の愛護及び管理に関する法律(昭和四十八年法律第百五号)e-Gov法令検索より
2023年6月14日朝日新聞「鳥インフルでの殺処分、鶏舎ブロック化で防げ 農水省、「分割管理」促す 都道府県に通知へ」