近頃の話題やニュースから

2023/11/04 近頃の話題やニュースから

鳥インフルエンザと殺処分(その2)

鳥インフルエンザと殺処分(その2)

さて、前回からの続きですが、今度は野生動物、例えば鹿児島県の出水平野に飛来してきたナベヅルなどの渡り鳥が高病原性鳥インフルエンザに罹患したとしたら、殺処分はできるのでしょうか。

実は、日本では、鳥類および哺乳類に関する、野生動物を対象とする鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(いわゆる鳥獣管理保護法)が定められており、渡り鳥は(ナベヅル、マナヅル、タンチョウは「希少鳥獣」として)この法の規制対象になっています。そして、鳥獣の保護または管理の目的、さらには公益上の必要があると認められる目的などで環境大臣(場合によっては都道府県知事)から捕獲の許可を得た場合を除いて、鳥獣の捕獲は禁じられています(同法8条・9条並びに同法施行規則5条6号)。なお、家畜伝染病予防法の適用対象は同法に明示されている家畜であり、野生動物は対象外となっています。

ということは、渡り鳥が高病原性鳥インフルエンザに罹患したとすれば、近隣の鶏舎の鶏に例えばカラスなどの野鳥やネズミなどの小動物を介して高病原性鳥インフルエンザが罹患する可能性は否定できないため、公益上の必要があることを理由に、渡り鳥を捕獲してやむを得ず殺処分をすることも可能なのではないかと思われるかもしれません。

しかし、日本には渡り鳥などを守るための他の法律が存在しており、例えば、文化財保護法では、我が国にとって学術上価値の高い天然記念物のうち、特に重要なものを特別天然記念物とし(同法109条2項)、その対象として「鹿児島県のツルおよび渡来地」や「タンチョウ」などが定められています。そして、これらの野生動物の捕獲などには文化庁長官の許可が必要であり(同法125条1項)、弱った個体の保護などは許可なくできるようですが(同法125条1項但書)、殺処分となると保護の範囲外と判断されるかもしれません。

また、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(いわゆる種の保存法)では、自然環境の保全などを目的として国内希少野生動植物種の捕獲や殺傷などを原則禁止しています(同法4条3項、9条)。ただ、傷病を理由に緊急に保護を要する個体では環境大臣との協議なく捕獲が可能で(同法54条2項、同法施行規則50条1項ロ号)、その捕獲後にその生息地に適切に放つことができず、かつ、学術研究などの目的で飼養をすることができないと認められる場合は、あらかじめ環境大臣に通知したうえでですが殺処分も認められているようです(同法54条2項、同法施行規則50条1項二号)。そして、その対象の中に、タンチョウ(国内希少野生動植物種)が含まれています(同法施行令1条1項、別表1)。

出水平野に飛来する代表的な渡り鳥としては、ナベヅルが約7600羽、マナヅルが約2300羽で、タンチョウは過去に数回飛来しているようですので、いずれにしても上記の法律に基づけば、これらの渡り鳥を捕獲して殺処分にしたり、移動を制限したりすることは現実的、物理的に非常に困難と思われます(二国間渡り鳥等保護条約については今回は省略しました)。

最近環境省から公表された「野鳥における高病原性鳥インフルエンザに係る対応技術マニュアル(2022年)」でも、元気な野生個体の捕獲(捕殺も含む。)は群れの拡散を起こし、感染個体が飛散する可能性があるため実施しない方がよく、また、給餌に強く依存している個体群の一部が感染した場合には、給餌を突然止めると餌を求めて、感染の可能性のある個体を含む群れが拡散してしまう可能性があるため、給餌を継続する必要があることなどが示されています。結局、近隣の鶏舎の鶏を守るには、人や物の消毒を徹底することや小動物や野鳥が鶏舎に入らないようにすることをするしかないのでしょうか。野鳥について強制的な防疫措置がとれるような早急な法整備が望まれます。

最後に、動物園にいる飼養鳥が高病原性鳥インフルエンザに罹患した場合はどうなるのか知っていますでしょうか。実は、環境省から公表された「動物園等における飼養鳥に関する高病原性鳥インフルエンザへの対応指針(改訂版)(2023)」によって、高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染していることが確認された飼養鳥については、できる限り苦痛を与えない方法を用いて殺処分することを検討するとし、その他にも、感染疑い飼養鳥の取扱いや、感染疑い飼養鳥や感染が確認された飼養鳥と同所で飼養していた鳥への対応などについて詳細な指示がなされています。

実際に、2022年11月には、和歌山県白浜町のアドベンチャーワールドで高病原性鳥インフルエンザが発生しアヒルやガチョウ、エミューなどが、同年12月にはフラミンゴが殺処分されています(改訂前の指針に示された対応に依ったものと思います)。動物園はその性質上感染防止が難しいことから、特にこの時期から冬場にかけての関係者の方々の辛さは察するに余りあるものと感じています。

今回は、いくつかの法の説明に終始してしまいました。日本の野生動物をめぐる法は複雑ですね。別件ですが、和歌山県太地町のイルカ漁については今なお世界中から注目されていますよね。日本ではまだまだ未解決の問題が多く残されているように感じています。


参考文献
2022年11月12日朝日新聞「鳥インフル確認、家禽類を殺処分 アドベンチャーワールド【大阪】」
2022年12月9日朝日新聞「フラミンゴからも鳥インフルエンザ確認/和歌山県」
2023年1月7日出水市クレインパークいずみ「ツル羽数調査の結果について 1月7日(今季最後)」

© 弁護士 石田清彦(飯沼総合法律事務所 所属)