2023/07/29 近頃の話題やニュースから
野球観戦
野球観戦
毎年7月のこの時期になると思い出す出来事があります。それは、高校野球の西東京予選の応援に行った際、ファウルボールがすぐそばに飛んできてヒヤッとした体験です。当時大注目されていた清宮選手の打った球が感覚的にはほんの一瞬で、満員の内野席最上部の隅っこにいた僕の3人右横の席に飛び込んだのです。けが人は出ませんでしたが、すごい球でした。到底よけられないと感じました。
またその頃、札幌ドームでプロ野球の試合を観戦中にファウルボールが当たって右目を失明した札幌市の30代女性に対して、主催者の日ハムに約3357万円の支払いを命じた札幌高裁判決も出ていました。
その判決文を読むと、日ハムが新しい客層を開拓するために小学生を試合に招待する企画を実施し、小学生である子どもらと共に参加したのが野球に関する知識も関心もほとんどない被害者である母親でした。日ハムはファウルボールの危険性について様々な方法、例えば、大型ビジョン画像、場内アナウンス、警笛音などで観戦者にアナウンスをしていました。しかし、判旨は、野球観戦契約に信義則上付随する安全配慮義務として、危険性が相対的に低い座席のみを選択しうるようにするなどの、招待した小学生と保護者らの安全により一層配慮した安全対策を講じるべき義務を負っていたと解するのが相当としました。被害者の過失相殺も含めて妥当な判断だと思います。
しかし、高校野球の試合では、さらにグラウンドを背にして一生懸命かけ声を出している応援団やチア、そしてブラスバンド部のメンバーなど、ボールの行方を追うことの難しい学生もいます。もしもその子たちに直撃したら・・・・・・と考えると、野球観戦の怖さというか、たとえほんのわずかの確率にしても、このイチかバチかの観戦システムって本当にいいのだろうかと思ってしまいました。NPB(日本野球機構)の作成した試合観戦契約約款の規定も観戦者にとっては非常に厳しい内容ではないかと感じていますが、日本高等学校野球連盟などや各県の高等学校野球連盟が主催者となっている全国高等学校野球選手権大会の観戦チケットに印刷されている免責規定は再考すべきではないでしょうか。
近年、例えば埼玉西武ライオンズの本拠地球場であるベルーナドームでは、バックネット裏から内野スタンドまで設置されていた防球ネットが2021年度から高さ20mの天井吊り下げ式ネットに改修されるなど、観戦者の安全性を高める努力がなされています。そして、マツダスタジアムやエスコンフィールドHOKKAIDOでも同様の対応がとられているようです。2000年以降、より一層の臨場感を求める観戦者の要望等によって、一時期はMLBを参考にして防球ネットの撤去やネットの高さをできるだけ低くするような検討がされてきた一方で、球場関係者はそのような要望と安全対策との狭間で苦心をしてきたようですが、そのMLBでも今では全球団の本拠地球場で防護ネットをダッグアウトの端以上に拡張させて観戦者の安全を確保する措置を講じているようです(なんと日本の優れた技術も用いられているようですよ)。
日本中の観戦者席を有する野球場でぜひ早急に安全対策を講じてほしいものです。
参考文献
日本野球機構「試合観戦契約約款」
札幌高判平成28年5月20日判例時報2314号40頁
Westlaw文献番号2016WLJPCA05209001
20180403 日本の漁網技術が、メジャーリーグのファンを守る。(谷口輝世子)Yahoo!ニュース
20191212 NBC News Every Major League Baseball team will expand netting to protect fans from foul balls